ディオメディアはいかにして優良制作会社となったか

ディオメディアのこれまでの歩みを振り返りながら、ここ数年のディオメディアが何故こんなにも安定しているのか、以前のダメダメっぷりをどうやって脱却したのか、その理由を探ります。

 

「転生王女と天才令嬢の魔法革命」公式サイトより
©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり / KADOKAWA / 転天製作委員会

 

 

① 前段 ~ディオメディアのこれまで~

本題に入る前に、まずディオメディアのこれまでの歴史を、当時のツイートを通じて振り返ります。

前身の有限会社スタジオバルセロナを経て、2007年に設立された株式会社ディオメディア。設立から4年が経った2011年時点では、かなりの好印象を持たれていたことが分かります。

しかし2012年夏クールに放送した『カンピオーネ! 〜まつろわぬ神々と神殺しの魔王〜』、そして翌2013年冬クールに放送した『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』辺りから徐々に不穏な空気が立ち込めてきます。

そして2013年末にはすっかり微妙な制作会社としての地位を確固たるものとしていました。(一方で2013年秋に放送された『ぎんぎつね』はそれなりに良い評判を得ていたようです)

 

さて、この後14年春の『悪魔のリドル』を挟み、2015年冬にアニメ『艦隊これくしょん -艦これ-』を始め4本のアニメを同時放映することとなるディオメディアですが、ここで艦これ放送前の評判を見てみましょう。

このように”色々な意味での”期待と、不安の入り混じる様相を呈しているわけですが……。

結果はご存じの通り、2015年冬クールを境にディオメディア知名度良くも悪くも飛躍的に上昇、愛すべきクソアニメ制作会社としての名を轟かせることとなりました。

その後数年もこの有様。

実況民やクソアニメ愛好家から愛されることこそあれ、まともな方向での期待をされることはなくまともに評価されることも当然なく、微妙な制作会社であるという言説からは逃れることができませんでした。

 

流れが変わったのは19年秋から20年夏までの1年間放送していた『あひるの空』からだったように思います。

あのディオメディアが特段の中断もなく、予定通りに1年間放送しきったという事実によって、一部のアニメ好きのディオメディアを見る目は確かに変わりました。

翌2021年、『聖女の魔力は万能です』が放送。こちらも安定した作画で、ディオメディアの株はさらに上昇することとなります。

そして2022年、『フットサルボーイズ!!!!!』……は色々とイレギュラーなのでさておき、『異世界薬局』が夏クールに放送。

この頃には、”昔はダメだったけど今は安定した制作会社”という認識が定着、そして今現在(2023年冬クール)に至り、『転生王女と天才令嬢の魔法革命』が評判を博しているわけです。

 

 

さて、これまで長々と見てきましたが、この変容過程において、一番分かりやすい変化は”制作本数の減少”でしょう。

 

ディオメディアの躍進その1 ~遅すぎた英断~

ディオメディア - Wikipediaより引用

上の表はディオメディアが2013年以降に制作してきた作品の一覧です。見ての通り、ディオメディアは2013年から2018年までの6年間に、計18本(年平均3本)のTVアニメを放送していました*1。しかし2019年から、記事を書いている現在(2023年冬)までの4年強の間に、放送したTVアニメの本数はわずか6本、年平均にして1.5本と、制作本数がおよそ半減していることが分かります*2

制作本数が減れば、当然その分スケジュールに余裕が生まれ、1作品当たりにかけられるリソースも増えるわけですから、クオリティが上がるのも必然でしょう。

しかし考えてもみれば、ディオメディアが明確に本数過多で崩壊していたのは2015年の冬。それから4年が経った2019年に漸く方針を転換しているのでは、判断が遅いと言いたくもなります。

ただ、一概にこの判断の遅さを非難できるかと言えばそうではありません。一旦アニメを作ることが決定してしまえば、完成した作品のクオリティに関わらず制作会社に一定の制作費は下りてくるのが日本のアニメ業界のシステムです。”制作本数を減らす”という判断をすること自体が難しかったであろうことも、また容易に推察できます。

遅きに失してもなお、制作本数を減らす判断を下すことができたのは紛れもなく経営陣のファインプレーであり、英断と評されて然るべきでしょう。

 

ディオメディアの躍進その2 ~実った人材育成~

さて、制作本数が減少したことで確実に制作体制を向上させたディオメディアですが、近年の躍進の要因をこれだけに求めるのはいささか拙速でしょう。実際そこで制作体制の内部に焦点を当ててみると、さらなる要因が見えてきます。

まず制作の中核をなす、監督・絵コンテ・演出・総作画監督、以上4役職を完全に固定できていること。

ここからは、明確にディオメディアの評判が上昇してきた『聖女の魔力は万能です』以降の3作品(聖女の魔力は万能です異世界薬局、転生王女と天才令嬢の魔法革命*3)に関して見ていきます。

例えば絵コンテ・演出に関して、3作品に参加された方の名前を列挙すると以下の通り(転天に関しては4話時点なので今後追加される可能性あり)。

 

草川啓造

井畑翔太

玉木慎吾

清水空翔

胡蝶蘭あげは

本多美乃

 

以上6人(敬称略)。普通の30分TVアニメと比べると明らかに少ないです。例えば少数精鋭で作っていたことで知られる『錆喰いビスコ』は絵コンテ・演出を担当された方の総数が11人、同じく少数精鋭気味だった『異世界おじさん』は10人*4、制作体制が相当良好だった『ぼっち・ざ・ろっく』ですら合計9人です。全話入江監督が1人で絵コンテを担当された『ヒーラー・ガール』でようやく同数の6人、となります。

3作品合計で6人しか使っていないディオメディアが、いかに少数精鋭・固定メンバーでの制作を徹底しているか、よく分かります*5

また総作画監督に関しては、松本麻友子井出直美石川雅一(敬称略)の3名による固定制が基本となっています*6。毎回3人総作監がクレジットされるので一見多く見えますが、その実この3人で全てのカットを見ているのですから、むしろ今のアニメ業界では健全な部類でしょう。

さらに監督も演出担当者のうち上3人*7でローテーションする形をとっており、こちらも実質固定されています。

このように作品の根幹をなす監督絵コンテ演出総作画監督の4役職を固定メンバーでがっちり固めることにより、近年のディオメディア作品は安定したクオリティを誇っているわけです。

 

さらに特筆すべきは、この少数精鋭の面子がほぼ全員、ディオメディアで長年仕事をし続けてきたアニメーターである点です。総作監の3名に関してはいずれも『乃木坂春香の秘密』(2008年放送)の頃からディオメディア作品に参加し続けていますし、演出の面々も遅くとも『ガーリッシュナンバー』(2016年放送)から継続してディオメディア作品に参加されています。

現在のアニメ業界はフリーランスのアニメーター頼みの制作体制が基本であり、作品ごとにスタッフを集め直すことが大半です。さらに人材不足も深刻であり*8、特に資金力や人脈に乏しい中小の制作会社に関しては、必ずしも毎回優秀な人材を揃えられるわけではありません。故にその時々で集まるスタッフの質により、同じ制作会社、同じ制作班であっても、クオリティにばらつきが出ることがままあります(もちろん安定して素晴らしい作品を出し続ける制作班も少なからずありますが)。

一方、今のディオメディア長年共に仕事をして実力をつけてきたメンバーによって、継続的にアニメを作り続けることができています。故に作品ごとの質のばらつきが少ないわけです。これが近年のディオメディア作品の安定感を支えている大きな要因であると言えます。

 

また、ディオメディア代表取締役である小原充氏は、クリエイターズステーションのインタビュー記事*9において、会社を作る際に重要だった点を聞かれて次のように答えています。

小原さん:一番重要だったのは「ゼロから人を育てて、その育てた人間と一緒にアニメを作りたい」ということでした。

上で触れたように、現在のディオメディア作品は、長年同社の作品に携わり、育て上げられてきたメンバーによって作られています。

つまり小原氏の”育てた人間と一緒にアニメを作りたい”という理想はディオメディアという制作会社において確かに体現され続け、そして設立から15年以上が経った現在、人材不足に苛まれる業界の現状とも見事に噛み合って、”作品のクオリティ”という目に見える形で見事に結実しているわけです。なんとドラマチックなサクセスストーリーでしょうか。

 

ディオメディアの躍進その3 ~優秀なパートナーとの出会い~

しかし監督、演出、総作監など上の方の役職を固められたところで、それを実現する原画マンがいなければどうしようもありません。実際問題、ディオメディアは決して大規模な制作会社ではなく、在籍アニメーターの数も限られています*10。いくら絵コンテや総作監が優秀でも、原画の数や質が足りなければ結局アニメは崩壊してしまうわけですが……それを防ぐために近年のディオメディア特定の海外アニメ制作会社と実質共同制作のような形を取っています。

最も綿密に連携していると思われるのが韓国のアニメ制作会社「Synod」。古くは『カンピオーネ!』(2012年放送)最終回のクレジットに社名が見られるなど、元々ディオメディア作品によく携わる制作会社ではあったのですが、近年その存在感をどんどんと増し、直近3作品ではいずれも毎話、原画・作監の多くを担当するまでになっています。

他に『聖女の魔力は万能です』では「NAMU Animation」が、『異世界薬局』、『転生王女と天才令嬢の魔法革命』では「studio SUNHAN」が作監・原画の一部をコンスタントに担当しています(いずれも韓国の制作会社)。回によっては原画に日本人が数人だけ、残りは全てこれらの制作会社に所属する海外アニメーター、なんてことも。

例えば『転生王女と天才令嬢の魔法革命』3話だとこんな感じ。

作監は全て海外アニメーター

原画も半数以上が海外アニメーター

このように社内だけでは足りないリソースを特定の海外制作会社の助けを借りて補うことで、ディオメディアは安定したアニメ制作を可能にしているわけです。例えるなら、”日本で作った設計図(コンテ)を、海外で形にしてもらい(原画作監)、国内で仕上げて(総作監)提供している”とでも言えばいいでしょうか。

 

そして重要なのが、聖女ならSynodとNAMU、異世界薬局ならSynodとSUNHAN、といったように、作監・原画は1作品当たり2社までしか頼っていないということ。

これが昔からそうだったかと言えば当然そんなはずもなく、例えば2017年放送の『風夏』では(回によってはSynod1社で済んでいる場合もあるのですが)こんな回もちらほらありました(アニメスタッフデータベースの当該ページから引用)。

#11「バンド」

(中略)

原画:紺野美喜 富永武志
   福島秀機 菅原美由紀

   清水空翔 雨宮英雄
   串田健太 森山剛史

   Synod
   StudioJ
   JUN ANIMATION
   AR Creative
   京江

原画を5社ものスタジオに頼っています。厳しいスケジュールに苛まれ、原画探しに必死になっている様が目に浮かぶようです。当然これでは安定するはずのクオリティも安定しません。

しかし、現在のディオメディアは、制作本数を減らした効果もあって、作監・原画を任せるスタジオを作品ごとに固定された2社に限定することができています。いわば協同して継続的にアニメを作り続けられる、優秀なパートナーを見つけることができたわけです。これならば新たに制作会社を探す手間が省けますし、関わる相手が限られる分、連携が密にとれて作業効率も上がります。継続して仕事をする中でクオリティに対する信頼感も生まれますし、意思疎通も取りやすくなるでしょう。

さらに原画作監を自社+2社のメンバーで固定できているということは、人材不足に悩まされる業界において激化する、フリーランスのアニメーターの奪い合いに参加せずに済むことを指します。つまり競合他社の動向に左右されることなく安定して作画のリソースを確保できるわけです。リソースが安定すれば、コンテの段階で攻めた画面設計にチャレンジしやすくなり、挑戦的で質の高い画面も作り出せるようになる。アニメーター不足で劣悪な制作会社に頼らざるを得ない状況に陥り、制作班が疲弊することもない。原画作監作業を任せる制作会社を固定できていることが、現在のディオメディア作品の品質の向上に繋がっているのは言うまでもありません。

 

⑤ まとめ

まとめると近年のディオメディアの躍進の理由は、以下の3点に集約できます。

 

1.2019年放送分を境にアニメ制作本数を減らしたことによる制作スケジュールの安定

2.設立当初から理念として掲げてきた社内での人材育成が実を結び、主要制作メンバーの固定化を実現できたこと

3.ディオメディア1社では足りないリソースを安定して補える制作パートナーを見つけられたこと

 

かくしてディオメディアは”愛すべきクソアニメ制作会社”から脱却し、安定して良作を生み出す優良制作会社へと変貌を遂げたのです。

 

人材の流動が激しい日本のアニメ業界においては、育てた人材を同じ会社に囲い込み続けることですら並大抵ではありません。せっかく自社で育て上げたアニメーターがフリーランスになって、他社作品に参加するようになる……なんてことは日常茶飯事です。

そんな中、決して恵まれた制作環境だとは言えなかったであろう2010年代中盤を経験しながら、なお10年以上同じ会社に留まって働き続けてくれる人材を複数確保できている……それはひとえに働いている人間にしか分からないディオメディアという会社の魅力、そして代表取締役である小原氏の人望のたまものなのでしょう。そしてどうしようもない評判に長年晒されながらも、じっくりと制作体制を整え、優秀なアニメーターを揃えて、こうして良質なアニメを送り出すまでになったディオメディアのこれまでの軌跡には、やはり感嘆せざるを得ないのです。

 

⑥ あとがき

この記事を書くまでは、ディオメディアの何がそんなにオタクを惹きつけるのか、正直理解できずにいました。何故これほどまでに愛されているのか、作画アニメを作った実績があるわけでもないのに何故やたらとスタッフに詳しい人材が何人も存在するのか……。しかし調べれば調べる程、かつてのクソアニメ制作会社としての確固たる評判と人気、そしてディオメディア作品の特異な制作体制とその変遷の面白さを知ることとなり、いつしかその魅力に呑まれるようになっていました。

この記事では触れられませんでしたが、若手のアニメーター*11も社内で着々と育っているようですし、来期(2023年春)放送予定の『聖女の魔力は万能です Season2』の他、少年ジャンプ+原作の『鴨乃橋ロンの禁断推理』が、井畑翔太監督の元、おなじみの制作チームによって制作されることも既に決定しています。この先も、ディオメディアの未来は明るいと見ていいでしょう。そんなディオメディアを、その魅力に囚われてしまった人間の1人として、これからも追い続けていこうと思います。

 

⑦追記

(2月16日追記)

転生王女と天才令嬢の魔法革命』7話にて、作監原画等に「NAMU Animation」が参加し、今作に関しては作監・原画を任せる海外スタジオが総計3社となりました。とはいえ「NAMU Animation」は過去に『聖女の魔力は万能です』への参加歴があり、ディオメディアの固定された制作体制に特段違いが生じているということはないでしょう。

*1:BEATLESS』と『BEATLESS Final Stage』は同一作品としてカウント

*2:制作クール数に換算しても4年強で9クール、1年当たり2本強でやはり確実に減少している

*3:フットサルボーイズは除く

*4:最終回除く

*5:同様に少数精鋭の体制を取っているNexusも元請け作品のほぼ全てが絵コンテ演出1桁台に収まる

*6:異世界薬局』では前田恭佑さんも後半話数で総作監として参加されたが、それでも4人

*7:草川、井畑、玉木

*8:参考:西位輝美氏のインタビュー記事(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2006/24/news023_3.html

*9:https://www.creators-station.jp/interview/legends/40867

*10:社員数60名(公式サイトより:2023年2月1日閲覧)

*11:鮎澤祐太、八幡佑樹、柴野美奈、長島祐樹など