『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』OPアニメーションについて、主に物理的な側面から分析しました。
❚絵コンテ・演出
ちな❚作画監督
渡部さくら❚原画
中村七左、まりんぐ・そんぐ、小澤龍之介、上田翔太郎、牧野秀則、井川典恵、諸冨直也、真鍋 元、本田舞波、渡部尭晧、河本有聖、内藤丈太朗、ふじいりな、山﨑匠馬、MNDG、松本元気、駿、西原大樹、宮原拓也、木曽勇太
OPのコンセプトについて
まず『上伊那ぼたん』OPのコンセプトについて考えます。
本OPの大きな特徴として、キャラクターが自らの手でカメラを持って日常風景を映像に収めているような演出がなされていることが挙げられます。多くのカットに手ブレ処理が施されていることや、6人全員が映ったカットが存在しないこと、キャラクターの自然体の姿を捉えた映像であることなどを考えると、そう解釈するのが自然でしょう。
また本作の設定としては、メインキャラクター6人が一緒の寮で生活していることが特徴的です。同じ建物で寝食をともにする仲間であることから、心理的な距離が近接しており、物理的に近い距離から自然体のキャラクターの姿をカメラに収めることができます。加えて多くのカットが寮の敷地内を舞台としており、画面に映る空間の広さは限定されています。
以上2点から、本OPのコンセプトを「作中のキャラクターの目線で、キャラクターの周りの限定された空間やキャラクターを切り取ること」と考えます。本記事ではこの認識に基づいて、以下の論考を進めます。
物理的な特徴
本OPが持つ、他のOPとは異なる物理的な特徴として、以下の2点が挙げられます。
- 画面比が4:3である
- 8mmフィルム風の画面、18fps
この2点について、順にその手法を選択する利点と、実際のOPの構成にどう活かされているかを見ていきます。
4:3を選択する利点とOPのコンセプトとの噛み合い
そもそも4:3は現代アニメの標準である16:9と比較して、画面の横が狭く、縦に広い画面です。この物理的な特徴は、以下のような効果をもたらすと考えられます。
①空間の広がりが限定される
横方向に広く映せないので、広角レンズで撮影した映像のような、画角が広く遠くまで見渡せるような眺望を映すのには向きません。空間の広がりが限定された、狭い空間を映すのに適した画面比と言えます。
②キャラクター1人を映す場合に画面に占めるキャラクターの割合が大きくなる
キャラクター(人間)は縦長ですから、画面に1人キャラクターを立たせる場合を考えると、横の広い16:9より横の狭い4:3の方がキャラクターの映っていない空間の割合が減少します。画面空間を効率的に利用できるため、少数のキャラクターにフォーカスした映像を作る場合に適した画面比と言えます。
以上2点から、本記事では4:3を「キャラクターを中心とした狭い空間を映すのに向いている画面比」だと位置づけます。
さて、本OPのコンセプトは「作中のキャラクターの目線で、キャラクターの周りの限定された空間やキャラクターを切り取ること」だと先に定義しました。このコンセプトは4:3の利点とマッチしており、4:3を用いることは合理的であると言えます。
以上を纏めると、本OPはメインキャラクター6人が住む寮という狭い空間で、キャラクターが自らの手で撮影した日常風景を切り取った映像であり、キャラクターの周りの限られた空間に焦点を当てていることから、横幅の狭い4:3の比率を用いる意義のあるアニメーションであると言えます。
8mmフィルムの利点とOPのコンセプトとの噛み合い
8mmフィルムは1950年代〜1970年代にかけて用いられていた映像記録フォーマットで、ホームビデオの撮影用として大衆向けにも普及しました*3。懐かしさと温かみを感じる質感が特徴です。
本OPは作中のキャラクターが自らの手にカメラを持って日常風景を撮影していることをコンセプトとしたアニメーションですから、まさにホームビデオを撮影しているようなシチュエーションを想定していると言えます。この点で8mmフィルムの映像を再現することはホームビデオならではの温かみやノスタルジーを醸成することに繋がり、アニメーションのコンセプトを的確に補強していると言えます。
ちな氏の映像作品として
ちな氏が監督を手掛けたアニメーション作品は以下3作。
- 【MV】それを愛と呼ぶだけ/まふまふ
- 【ちな×クリープハイプ】『でたらめな世界のメロドラマ』/♪「凛と」/TOHO animation ミュージックフィルムズ
- GEMNIBUS vol.1『ファーストライン』(Amazon Prime Videoのリンク)
いずれも画面比は4:3ですから、4:3はもはや、ちな氏の代名詞と言ってもよいでしょう。ただ明確に撮影者の存在を意識した映像は恐らく上伊那ぼたんOPが初と思われます。
最近のちな氏は絵柄も含めてレトロアニメーションの復刻といったような方向性で4:3を使っていた節があり、監督作でも後者2つはその文脈に乗ったアニメーションでした。今回同じレトロでも実写レトロに舵を切って、そしてここまでインパクトのある映像を作り上げたというのは、ちな氏の経歴の中でも大きな転換点であり、マイルストーンになるような気がします。。
余談
以前『スキップとローファー』のOPについて分析した際、「カメラが不在であることで自然体を切り取ることに成功している」というような分析をしました。キャラクターが誰にも見られていないと知覚しているからこそ、自然体の姿を画面に収めることができていると。
一方で『上伊那ぼたん』のOPは、むしろカメラの向こうにいる撮影者の存在を強く意識させることで、自然体の姿を切り取っていると知覚させています。キャラクターは見られていると知覚しているが、見られている対象が暗黙的に寮に住むキャラクターに限定されているため、自然体の姿を画面に収めることができていると。
勿論切り取っている対象が「ダンス」と「日常の何気ない風景」では、一般に他人に見せることを想定しているかの度合いが違いますから、一概に対比できるものではありません。ただスキローがカメラをキャラクター空間の外に置き、2人の姿を同時にカメラの中に収めることでキャラクターの自然体を描いていたのに対し、上伊那ぼたんがカメラをキャラクター空間の中に置き、キャラクターを撮影者と被写体の関係に据えることで、キャラクターの自然体を画面に収めていることに成功しているのはアプローチとして非常に対照的です。
カメラを外に置くか内に置くか。カメラを撮影手段と捉えるか、キャラクターの目線を代弁するものと捉えるか。2つのOPアニメーションが全く違うアプローチで、同様に自然体のキャラクターの魅力を引き出すことに成功しているのは面白いなと思います。
上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花OPを演出しました。よろしければ、是非。 pic.twitter.com/B7e3tAbrJU
— チナ•スィ (@kg_ui) 2026年4月10日
*1:
4:3とか18fpsとかいろんな部署が調整してくれて感謝...
— チナ•スィ (@kg_ui) 2026年4月10日
*2:
余談ですが、上伊那のOPは演出さんの意向で18fpsで進める事になったのですが、
— 小川 耕平 (@Ogawa_Kohei) 2026年4月10日
弊社メインツールの3dsMaxが18fpsに対応していなくて衝撃でした…(スクリプトで変えても内部システムで自動で変更される…)
やはり時代はblender😂#上伊那ぼたん