宇宙よりも遠い場所 放送開始から5年が経って

放送開始から丸5年経った今、改めて放送当時の思い出について振り返るべくこの文章を書いている。

 

私が今作を見たのは高校1年生の冬だった。当時は深夜アニメに嵌ってからまだ1年も経っていない頃で、見るもの全てが新鮮に感じていた。混じり気のない心でアニメを純粋に楽しんで、どんどんと沼に嵌っていく、そんな時期だったと思う。

その中で現れた「宇宙よりも遠い場所」という作品。放送前にPVを見た時から気になっていて、見ようと決めていたことははっきり覚えている。ニコニコ動画で配信されたその日に、まだ数万再生も行かないような段階で見たことも覚えている。めちゃくちゃ面白かった。凄い作品が来た…と思ったかどうかは覚えていないが、続きも見てみようと思った。*1

 

はっきりとこの作品は凄い、と思ったのは3話だったと記憶している。前半のテンポ感に爆笑し、結月の涙に感動し…その緩急の効いた作劇と単発回としての完成度の高さは私の心を鷲掴みにするに十分だった。

特に印象に残っているのは結月の泊まるホテルの部屋にキマリ達が押しかけてくるシーン。キマリ達が結月を梯子で助けに来るシーンが夢オチに終わり、コメントの様子からしてこれは花田先生とやらが暴走していなくて良い感じなんだろうなぁ、などと考えていた初見時の無知な私は、直後のシーンで結月の部屋のドアをノックする人物=母親だとすっかり思い込んでいた。だからキマリ達が扉の外から現れた時、心の底からびっくりした。多分結月と同じくらいびっくりしていた。結果として、自分は結月と同じ目線で物語を受け止めることができた。同じような年のキャラクターと、同じ目線でアニメを視聴することが出来た。それが未だに記憶に残るような感動に繋がったのだと思う。


鮮烈の3話が過ぎ去った後は、ブログを漁ったり、感想記事を漁ったりして、よりもいの世間的な評価を確認する日々が始まった。当時から私はアニメの評価というものにとても興味があったのだ。でなければ5chベストアニメランキングの集計なんて好き好んでしないし、とあるニコ生放送に常駐してランキング企画を手伝ったりするはずがない。とにかく私は自分自身の評価を客観的に裏付けたかった、そして自分の評価や感性に自信を持ちたかった…のかもしれない。(そしてそれは今も多分変わらない)

ともかくそんな文章たちの中で、よりもいは概ね絶賛されていたこと、ゆるキャン△と並んで3話時点で最高格の評価をされていたことははっきりと覚えている。

4話以降もよりもいの面白さは留まるところを知らなかった。4話に心弾み、5話に衝撃を受け、6話で爆笑し、キャッチーでウィットでセンセーショナルな7話を楽しんだ。めぐっちゃんが北極勢と呼ばれるようになり(当時は最終回にあんな展開が待っているだなんて夢にも思っていなかった)、8話で船の外に出たことに対して賛否両論が巻き起こったりしながらも、よりもいはいつしか毎回”いい最終回だった”のコメントに溢れ、”全話神回”と呼ばれるようになっていた。

この頃(8話前後)には私は5chのよりもい板を読みふけり、あにこ便の感想記事にかじりつくようになっていた。ニコ動のコメントが見たくてその週に放送された回を繰り返し見てもいた。とにかく他人の感想が読みたかったのだ。そして共感したかった。自分の評価を裏付けたかった。アマランストーカーに辿り着き、円盤売り上げの予測を眺めたり順位推移を見守ったりもしていた。少し話が逸れるが、当時はそれはもうゆるキャン△の勢いが凄かったのだ。5話の後か7話の後か…とにかくその辺りでアマラン1位を獲得し、円盤1巻が一時品切れにまでなっていた。予測売上は跳ねあがり、優に1万を越えた…と思う。その裏でよりもいは慎ましやかに、されど着実に売り上げを伸ばしていた。順位は100位台から200位台辺りで推移していたはずだ。最終的な売上予測は5000枚程度だったと思う。

 

そして9話が、10話11話12話がやってくる。


9話。今改めて全体を俯瞰すると、私は基本報瀬に感情移入してこの作品を眺めていたのだなと思う。それを如実に表しているのが9話だ。思わず泣きそうになった回といえば、と聞かれたら、今もこの回を真っ先に挙げる。それくらいに衝撃的な話数だった。
初見で9話を見ていた当時の私は、ハルカトオクを流した割には感動的な展開になっていないなぁと思ったものだ。いつもならもっと印象的で感動的な展開になるはずなのに。はて、どうしたのだろう。そう思ったら続きがあった。船外へ出て、南極の氷へ降り立つ。報瀬に先に行くよう勧めるキマリ達。その手を取って、一緒に氷に降り立つ4人。そして報瀬は泣く…かと思いきやこう言うのだ。「ざまあみろ…ざまあみろざまあみろざまあみろ!あんたたちが馬鹿にして鼻で笑っても私は信じた!絶対無理だって裏切られても私は諦めなかった!その結果がこれよ!どう、私は南極に着いた、ざまあみろざまあみろざまあみろ、ざまあみろーーーーーー!!!」
多分これ以上爽やかな”ざまあみろ”はないと思う。これ以上裏付けがあって、心からの言葉だと理解できる”ざまあみろ”はないと思う。繰り返すが、当時の私は報瀬に感情移入していた。深く深く感情移入していた。心は報瀬と同じだった、と言ってもいいのかもしれない。だから”ざまあみろ”の第一声を聞いたその瞬間、衝動的に泣きそうになった。だって今までの努力が全て報われた瞬間だったから。馬鹿にされ、鼻で笑われ、誰からも理解されずに無理だと言われ続けたその日々が全て。それが直感で理解できたから、瞬時に理解してしまったから、泣いた。と言っても当時の私は涙腺ガチガチで、実際に涙が出るほどのことはなかったのだけど…それでも涙腺が緩んで目が潤むくらいにはなった。
とにかく当時の私はうら若き高校1年生なのだ。感受性豊かなお年頃なのだ。そんな時期にこれほど出来の良い青春アニメをリアルタイムで追えたこと、そして登場人物にこれほどまでに感情移入して作品を楽しめたことは、本当に貴重な経験だったと思う。そして今の今まで、よりもいは私の人生に彩りを添えている。


10話。この回も本当に完成度が高かった。友達をこれほど美しく定義した話数が他にあるだろうか?なんせ「友達って多分、ひらがな1文字だ!」である。あまりにも完成されている。こんな名言がさらりと出てくる作品なんてそうそうあったもんじゃない。
これまでずっと面白い回を積み上げてきた今作、だから10話にもなると、次の回は大丈夫なのか?そろそろ失速するのでは?という不安が自然と出てくるものだ。しかし放送されるよりもいの話数が、毎回毎回、その不安をかき消していった。
南極に着いてからの4話は本当に凄かった。なんせ毎回期待を超えるものが出てくるのだ。今まで溜めに溜めていた伏線を、視聴者が気になっていた話題を、しっかりと消化しながら、それでいて視聴者の期待を大きく上回るものを提供してくれるのだ。これほどの視聴体験はなかなか味わえるものではない。


11話。この回を初めて見た時の自分の感想は、確か「こんなはっきり言って大丈夫なの?炎上しない?」のようなものだった。報瀬の宣言があまりにもきっぱりとした拒絶だったから、有無を言わせぬものだったから、当時は少し困惑したのだと思う。良い話だと思う以上に。そして評価が落ちることを心配した。それが1回目を見終わった時の素直な感情だった。でも世間の反応は自分の想像を遥かに超えるものだった。ネット上に溢れる絶賛の声。ぐんぐん上がるアマランの順位は、あっという間に2桁台にまで駆け上った。よりもいという作品が大好きだった(そして今も大好きな)私はそれがとても嬉しかった。漸くこの作品が評価されたのだと、話題になってきたのだと。
その後自然と、よりもい11話に対する自分の評価も上がっていった。周りの意見を見てバイアスがかかった結果だと思う人もいるかもしれない。でも私はこの回に対する解像度が上がった結果だと思う。感想を読んで繰り返し視聴する中で、今まで理解できなかった感情が、演出上の工夫が理解できたから、より一層この回を楽しめるようになったのだと思う。そして今となっては見る度に目が潤むようなお気に入りの回になっている。


12話。はっきり覚えていること、それは「ヤバい」以外の語彙を失ったことだ。報瀬がノートパソコンを開き、パスワードを入力し、メールが画面上に溢れ出たその瞬間、当時の私は「ヤバい」と口走るbotと化した。観終わった後、気紛らしに室内用のボールをカーテンに向かって投げながらも、心の内の興奮を抑えきれず、ノートパソコンの前にいそいそと戻って他の人の感想を読み漁った記憶は今でも鮮明に残っている。

”感動しすぎて涙が全く出てこない”という経験をしたのもこの回だ。後にも先にも、よりもい12話を初めて見た時にしか味わったことがない。衝撃に胸が締め付けられ、ただ呆然とするしかなくなるのだ。泣く、という行為すら超越した感動、それを味わった時の衝撃というのは筆舌に尽くしがたいものがある。

とにもかくにもこの回は凄かった。自分の経験としても、そして世間の反応としても。
アマランはさらに上昇して1桁台にまで辿り着いた。ネット上の反応も11話以上だった。何より報瀬が送り続けていたメールという最大の伏線を回収したことで、よりもいという作品は概ね傑作として認定された。最終回で報瀬母が生き返る展開でもない限りは名作だろう、みたいな書き込みがあったことも記憶している。

宇宙よりも遠い場所12話、この回を超える回をTVアニメで拝める日は恐らくないだろう。あったらそれは、人生の価値観を揺るがすような、とんでもない作品になると思う。それくらいにこの回は素晴らしい視聴体験を私に残してくれた。貴重な財産であり、人生の一部分であり、大切な思い出だ。そう言い切れるくらいの作品には、未だよりもいしか出会えていない。

 

13話。飛行機のランディング、競馬のウイニングラン…なんて表現では釣り合わないくらいの、あまりにも内容の濃い最終回だった。初見で観終わった時には、多分内容の半分も頭に入っていなかったんじゃないかと思う。それでも晴れやかな気持ちで見終えていたことは確かだ。何の不満もないと思った。いい最終回だと思った。そしてそれは視聴回数を重ねるごとに確信へと変わって行った。

なんせ伏線回収が見事すぎるのだ。4話で話していたキマリの目標も、ノートパソコンに残されていた未送信のメールも、めぐっちゃんのその後も、本当に全て綺麗に回収しきってしまった。こんなにすっきりとした最終回があるだろうか。後腐れのない最終回があるだろうか。

EDをバックに、主役4人のクレジットが一人ずつ出てくる演出も粋だった。傑作を見終わった後にしか味わえない感動がそこにあった。リアルタイムで追ってきた集大成が、思い入れの一つの終着点がそこにあった。

当時の反響というのもまた凄いものだった。アマランは1位になり、ニコ生アンケは最終回にして”とても良かった”が97%を超えた。円盤は初動からぐんぐん売上を伸ばし、最終的には1万枚を超える売上を記録した。年末の5chベストアニメランキングでは圧倒的な支持を受けてぶっちぎりの1位を獲得した。

1話からずっとリアルタイムで追ってきた作品が多くの人から最高クラスの評価を受けていて、数字にもそれが表れている。その事実が何よりも嬉しかった。この作品を応援してきて良かった、と心から思った。

 

放送終了後もよりもいは事あるごとに視聴した。一挙放送、再放送、ニコ動の無料開放、そして再放送。周回を重ねるごとに、今作への愛はどこまでも深まっていった。

大学に入って最初の冬には一人で聖地巡礼にも行った。東屋を目にした瞬間の感動は今でも鮮明に覚えている。一通り写真を撮った後で、ぼんやり正面の池を眺めながら、あぁ、これがキマリや報瀬が見た景色なんだな…と感慨にふけっていた。取り壊される前の谷越ビルも見ることが出来た。脚で稼いだ思い出の写真たちは、今となっては大切な宝物だ。

 

今現在の私がこんなに一つの作品に対してのめり込むことはもうないと思う。趣味は増え、アニメへの新鮮味は薄れ、求めるハードルは上がり、一つの作品に対してかける労力も相対的に減ってきている。

それでもよりもいに嵌っていた時の思い出は色あせない。あんな視聴体験をもう一度してみたいという思いは消えない。だから私はアニメを見続けているのだと思う。

 

*1:余談だが、配信から1週間経った後のニコ動でのよりもい1話の再生回数は19万を超えたくらいだったと思う。少なくとも20万再生には届いていなかった。それが今は140万再生越え!