2023年冬アニメ 最終評価

2023年冬アニメの最終的な評価と感想。

 

評価

SSS:(該当なし)

SS :(該当なし)

S+:もういっぽん! ブルーロック

S:転生王女と天才令嬢の魔法革命 お兄ちゃんはおしまい! 虚構推理 Season2

A:陰の実力者になりたくて! REVENGER TRIGUN STAMPEDE D4DJ All Mix 
クールドジ男子 にじよん あにめーしょん 

B:HIGH CARD 大雪海のカイナ

C:(該当なし)

 

 

S+

もういっぽん!

スポーツって基本的には勝敗に規定されがちで、勝ち負けに囚われずに魅力的な物語を作るのは、特に創作物では難しいと思うのだけれど、今作は勝敗に囚われない面白さを実現できていた稀有な作品だったと思う。主人公側が負けても全然いい、と思えるくらいに勝敗に関係のない熱い試合を作れていたのは間違いなく今作のすごく良いところ。

とにかくキャラの掘り下げがべらぼうに上手かった。敵味方問わず、試合に向けての過程や意気込みを丁寧に描けていたから、どのキャラクターにも自然と感情移入できた。試合中、敵味方関係なく応援してしまって、どちらにも勝ってほしいと思ったことが何度あったか。特に過去の背景描写を試合の展開に結びつけるのがめちゃくちゃ上手くて、感情の面でも戦術の面でも、過去回想が生み出すドラマが物語の面白さを大きく底上げしていたと思う。

作画の面では決してリソースに恵まれた作品ではなかったものの、柔道シーンでは満田一さんの担当パート中心に、要所要所に光る作画を見せてくれた。予算は少なくても、作画リソースの配分とこだわりで見応えのあるアニメーションはちゃんと作れるんだという良い見本。

2期もやって欲しいけど……売り上げ的には厳しいのかな。でも本当に良い青春を見せてもらいました。文句なく今期NO.1。

 

ブルーロック

目の前の敵を倒して生き残ることに重点を置いているという意味では、『もういっぽん!』とは対照的な作品だったのかなぁと。エゴイストたちのエゴのぶつかり合いが生む、熱量の高い試合とマウントの取り合いに毎回心躍らされていた。

1クール目から一定以上の面白さはあったものの、2クール目の”ライバルリーバトル”でさらに面白さが加速した印象が強い。2~4人という少人数で行われるサッカーが、通常の試合では難しい個々のキャラのより濃密な掘り下げを実現すろと同時に、キャラ間の関係性の変化と、試合を通じたキャラクターの成長・進化を色濃く描くことにも成功していた。キングと称して1人のサッカーに拘っていた馬狼が、潔に食われて(利用されて)キングの座から失墜したのち、悪役として再起を果たす18話辺りの展開は特に熱くて印象深い。

サッカーの試合自体は止め画中心の見せ方だったが、その分一枚一枚の止め画は丁寧に描けていて、迫力は出せていたと思う。ひょっとしたら漫画を超えるほどではないのかもしれないけど、少なくとも(自分も含めて)アニメ勢が不満を持つような出来ではなかったので十分及第点かなと。映画と2期もトントン拍子に決まって、このままコンテンツとしても盛り上がっていって欲しいところです。

 

 

S
転生王女と天才令嬢の魔法革命

中盤以降の脚本には物足りなさこそあれど、キャラの魅力と、最終回にぶち込まれた特大の百合である程度は許せてしまうような作品だった。溜めに溜めて、引っ張った末に繰り出される甘々の百合描写の破壊力たるや。

キャラに関して、序盤はアニスの快活で前向きな性格に惹かれていたけど、特に終盤アニスが曇ってからは、アニスを支えるティルティの距離感や、強気にアニスを引っ張るユフィの力強さに魅せられていた気がする。1話ではユフィを救い出したアニスが、最終回ではユフィに救われるという、立場の転換もまた印象的だった。

一方で、1話でロケットスタートを決めた後に伸び悩んだこと、8話付近のアニスとアルガルドの喧嘩編に入り込めなかったこと、終盤のアニスの翻意が分かりにくくて若干アニメ勢は置いてきぼりにされたこと、辺りが今作概ねの不満点。

結局のところ、シリアスな展開を作る時に、それに見合った説得力を持たせられなかったのが今作の弱みでしょう。アルくんの暴走も、アニスの王女にしがみつく姿も、アニメの描写だけで心から理解するのは結構難しかったと自分は思うので。描写の積み重ねが上手くできていなくて、視聴者側が頑張って情報を整理しないとキャラの内面を把握できない場面が多かった*1ところが、自分の中での評価の伸び悩みに繋がった印象はある。尺の配分や描写の取捨選択を工夫すれば、もう少し見やすく、理解しやすいアニメにできた気もするから、そこはとても惜しい。

一方で、アニメーションの出来はディオメディア史上、最も良かったと言っても過言ではないくらいだったと思う。この調子で今後も是非ともよろしくお願いします。

 

お兄ちゃんはおしまい!

作画に言及すると長くなりすぎる気がするので一旦ここでは触れないことにして、とりあえず惜しかったところから。

1つ目、ギャグ(=ボケとツッコミ)がどちらも弱い。単体で笑いが取れるほど強烈なボケがあるわけでもなく、かといってボケとツッコミを軸にしたテンポの良い掛け合いが作り出せているわけでもなく、全体に笑いの希薄な作品になっていた。日常系は笑えてなんぼのジャンルだと思っている*2ので、ここが弱いとどうしても見ていて退屈に感じてしまう。

2つ目、サブキャラクターのギャップのなさ。日常系作品を魅力的に見せる原動力の1つとしてキャラの二面性=ギャップが挙げられるのだけど、今作でそれを兼ね備えていたのはまひろ(見た目女子中学生なのに中身はダメニート独身男性)と、みはり(秀才と見せかけて重度のブラコン)の主役2人くらい。あとはどのキャラも通り一遍のキャラ付けしか為されていなかったように思う(せいぜい途中で中二病に目覚めたもみじくらい?)。たとえ脇を固めるキャラクターであっても、ギャップがあるだけで個性がグッと際立って作品の面白さに繋がったりすることは多いので、一面的なキャラ造形が目立ったのは惜しいところ。

まあただこの2つは原作由来のものだろうし、アニメ制作側はむしろ最高の仕事をしたと思う。アニメ化によって、今作が持つポテンシャルは最大限に引き出せていたのかなと。原作読んだ印象も正直微妙というか、元々ニッチな層に刺さる漫画だったんだろうなぁという感じだったので、よくぞここまでのヒット作に仕上げたなぁと……フォロワー11万人、円盤1巻売り上げ6000枚超えのコンテンツにまで持って行ったのはひとえにアニメ制作陣の功績でしょう。

 

虚構推理 Season2

鋼人七瀬編に話数をかけすぎた結果、不評を買った1期とは違って、短編を細かく繋ぐことで高い評価を得た2期だったように思う。特に2話から始まった雪女編は、全体の中でも抜けた面白さがあった。

その後これを超える回は自分の中ではなかったのだけど、タイトル通りに虚構の推理も交えながら事件を解決し、時に苛烈に真実を暴いて世の秩序を保とうとする、琴子の姿勢は変わらず痛快で、安定して楽しめた。

ほぼ会話劇オンリーの作風で、アニメーションには特段の強みもなかったけれど、それでもこれだけ引き込まれるのは脚本の力、それと演出・音響面の出来の良さなのだろうなと。ある意味では”聴かせる”作品だったと思う。

 

 

A

陰の実力者になりたくて!

𝐼 𝑎𝑚 𝑎𝑡𝑜𝑚𝑖𝑐(耳元ウィスパーボイス)

気楽に楽しめる作品だった。”シャドウが認知していないところで勝手にキャラが動いて物語が進む”という今作の性質上、話の本筋は理解しなくてもいい(=シャドウも大して分かっていない気がするから)と思えたのが結構大きくて、軽い気持ちでのんびり見るには丁度いい作品だった。

逆に言えば、ストーリー面に特別惹かれたわけではなく(そもそもよく分かってないから)、ただギャグ作品としてのんびり見ていただけなので、評価はこのくらいで。アニメーション面では中西監督が獅子奮迅の活躍を見せていて、映像もそこそこ高いレベルで安定していたけど、言うてもそこそこ止まりだった感は強い。やはりシャドウありきの作品でしょう、これは。

 

REVENGER

硬派な時代劇作品で出来は決して悪くなかった……が、アニメでやる意義はあまり感じられなかったというのが正直なところ。江戸時代の長崎とアヘンを題材にした設定と脚本、地に足の着いたキャラ造形、どちらも十分実写で描き切れる程度のもので、アニメ独自の魅力は出せていなかった印象がある。

唯一アニメらしいと言える派手な戦闘シーンも、作品の雰囲気には噛み合っていなかった印象。金箔で人を殺すのはまだしも、矢を放ったら服が破けるとか、超加速して敵に突っ込むとか、絵面だけ見るとギャグでしかないものも多くあって、今作の硬派でシリアスな雰囲気を壊しているようにも感じられた。アニメにおいて緊張と緩和のバランスは大事だけど、特にこういう作品ではクスッと笑えるような要素は緊迫感とは無縁な日常のシーンに挟むものであって、むしろ緊迫感を演出すべき戦闘シーンに笑える演出が挟まるのでは本末転倒かなと。

そもそも時代劇自体ドラマ向きの題材で、わざわざアニメで描くのならドラマとの差別化を図ることは大事だと思うのだけど、自分が今作を見る限りはそういう差別化は出来ていなかったこと、何より”この中身なら絶対ドラマでやった方が説得力と真剣味が出て面白いじゃん”……と思えてしまったのでこの位置。

 

TRIGUN STAMPEDE

重たい展開を作るのは上手いけど、それをカタルシスに繋げられていないところが惜しかった。重たくてしんどい展開が続くのだけど、それに対するご褒美が一生来ないまま1クール終わってしまったというか。重たさ一辺倒ではエンタメとして楽しみづらい。

それと終盤のヴァッシュとナインの対立構図がいまいちだったかなと。どちらが正しい、どちらが間違っているというわけでもない問題に関して、ただお互いに自分の意見を主張するだけの不毛な議論が続くから、正直本人たちの真剣さほどに引き込まれる感覚はなかった。実りのない議論が続いた末に待ち受け得ている結末が、ナインがナイン自身をヴァッシュの手によって殺させるというこれまた救いのない、かつ議論を投げ出すような展開だったのも煮え切らない。結局この2人の言い争いはなんだったんだろうという虚しさだけが残って、1クールの締めとしてのカタルシスは感じられなかった。

1つ明確に褒められるのは、CGのクオリティ。ディズニー作品ばりの芝居付けには賛否あるだろうけど、今の日本のCGアニメ会社の中では、間違いなく一番の実力を誇るであろうオレンジが送り出す渾身のCGアニメーションは、アクションの迫力からスケール感、縦横無尽なカメラワークに至るまで最高峰の品質だった。この映像面の良さが何一つとして救いのない物語を見続ける原動力になっていたことは間違いない。

実はこれが原作の前日譚でした、ということらしいので、続編はほどほどに楽しみにしております。

 

D4DJ All Mix

ファン向けアニメとしては及第点でしょう。一応の本筋がある中、キャラクターが可愛く描けていて、新曲でライブをしてくれる、それで十分。

個人的にはキャラクター同士の絡みと、サンジゲンのCGを楽しみに見ていた。元々色々と感性が合う作品なのもあって、妙に重たいむにの対りんく感情にニヤニヤしたり、CV.佐藤日向のキャラが星見純那みたいなこと言ってるのを見て笑ったり、Photon Maidenおっぱい大きいなぁって思ったりしながら……そんな感じでなんだかんだ楽しかったです。

 

クールドジ男子

まず絵柄が好みで、次に作品の雰囲気が好みだった。女性向けアニメであることは確かだけど、主役の男性陣に嫌味はなかったし、モブや脇役で出てくる女性陣が妙に可愛くて、声優も豪華だったのも大きい。声優誰かな~と考えて、クレジット見て、この人だったか~とかやってるのが結構楽しかった記憶。

 

にじよん あにめーしょん 

ファン向けショートアニメとしていい作品だった。既存の作品で描いてきたキャラクターの関係性があるから、短い尺でもちゃんとしたドラマが作れるのはスピンオフ作品の強みですね。あとミア・テイラーってこんなに可愛かったっけ()

 

 

B

HIGH CARD

どこが悪いというよりは、どこも良くなかったと言った方が正しい。所持者に超能力をもたらすトランプ、通称”ハイカード”を巡って繰り広げられる能力バトルが売りの作品だったはずだけど、実際には尺の大半がキャラ掘り下げ回に費やされて、能力バトル作品としての魅力をほとんど出せていなかったのが残念だった。

トランプの数字も、主人公が最弱であるという以外に大した意味はなかったのが惜しい。せっかくの能力バトルなのだから、「数字の強さが能力の強さと比例している」くらいの設定はあっても良かったのでは。能力バトルものにありがちな能力の相性といった要素も一切出てこなくて、ただハイカードは奪い合うための対象、作品を派手に見せるための要素でしかなかった。

尺の大半を割いたキャラ軸のドラマも特別面白いわけではなく、映像の出来も概して微妙なので、褒められるところを探すのも難しい。致命的に悪いところはないけど、代わりに特別良いところもないから、結果として致命的につまらないという、そんな作品だった。2クール目は多分見ないです。

 

大雪海のカイナ

シンプルにTVアニメとしての強みがなかったなと。キャラクター、世界観、映像面のクオリティ、1話単位の面白さ、1クール通しての完成度……全てにおいて平凡で、突出したものがなかった。

例えばキャラクターで言えば、信念や意思といった人間の核をなすような部分をもっと描いてほしかった。リリハで言えば戦争を止めた先で何をしたいのか、カイナで言えばリリハを助ける以外に何を目指すのか。

王女という立場にあるなら、国を守って水不足を解決するという意志を強調してもいいし、文字を読めるスキルを持っているなら、古代文明を明らかにしたいという野望を持っていることにしてもいい。とにかく何かしら一工夫できていれば、もっとキャラクターに深みや魅力が出てきたと思うんだけど、今作はそういう工夫もなく、ただただ薄いキャラ造形にとどまってしまっていた。

あと今作自体が劇場版の前振りという位置づけだったこともあってか、世界観の大部分を明かさないまま1クール終わってしまったのも残念だった。せっかく色々話を膨らませられそうな魅力的な世界観があっても、1クールずっと人間同士で戦争してるんじゃその魅力の半分も引き出せないわけで。

PVを見る限り、劇場版のほうがむしろスケールが広がって、世界観をフルに使った面白いものが見れそうなので期待したい。というかこの程度の出来のTV版をやるくらいなら、むしろ最初から劇場版だけで良かったのでは()

 

 

総評

不作だったことには間違いないけれど、なんだかんだと自分の好きなジャンルの作品が多くて楽しいクールだったかなぁと。『もういっぽん!』1作品だけでも割と満足度高いところに、作画枠のおにまい、百合枠の転天、さらにその脇に虚構推理やD4DJ、ブルーロックまであったので文句ないですね。

とはいえ覇権枠が1つも出てこないというのは、それはそれで盛り上がりとして寂しいものがあり……この不作が短期間に連発しないことを願いたいものです(ひとまず春クールは大丈夫そうですが)。これからも面白いアニメがたくさん見られることに期待しつつ、筆を置きます。

 

*1:少なくともアニメだけを見ている分には

*2:基本的にストーリーで魅せるジャンルではない分、笑いが取れないと視聴感が平坦になりがち