「明日ちゃんのセーラー服」に見る"原作改変"の魅力

 近年アニメにおける”原作改変”は嫌われ者として扱われることが多いように感じる。確かに原作改変した結果、原作ファンから批判されるばかりか、新規ファンからも大して評価されないまま終わる、なんてのはよくある話だ。

 しかし考えてもみて欲しい。原作の媒体は漫画、ラノベ、ソシャゲ、などなど色々あるけれど、いずれにしても”アニメーション”ではないのだ。アニメではないものをアニメ化する、その過程で何かしらの変換が行われること自体はごく自然な行為ではないか。

 つまり媒体の違いを埋めるために、どんな作品であっても少なからず”原作改変”は必要とされるわけで、それが良い方向に働くこともまたよくある話なのだ。原作改変というワードを一括りに批判して、原作通りにアニメ化しろ!と声を上げるのはナンセンスなのである。

 

 …と変に理屈じみた(でも割と本音の)前置きはこれくらいにしておいて。

 

 「明日ちゃんのセーラー服」は、この”原作改変”というものをとても上手に用いてアニメとしての完成度を飛躍的に高めた作品だと私は思う。

 把握している範囲で、原作改変が行われたパート(アニオリパート)をざっと書きだすとこんな感じ。

  1. 4話 明日ちゃんが寮に行く理由を、”縄跳びをしていて制服が汚れた”から”ソフトボールが水溜まりに落ちた際の泥跳ねで制服が汚れた”に変更
  2. 縄跳びシーンは4話のED映像としてアニメ化
  3. 7話 全て
  4. 8話 龍守さんに勉強を教えてもらうように頼む一連の下り
  5. 8話 Cパート(花緒がセーラー服を着る下り)
  6. 9話 全て

(原作未読につき、抜けがあるかもしれませんがご容赦を)

 

 全部で6つ。これを1個1個分析していくのではくどいので、今回はこの中から2つをピックアップして、今作で行われた原作改変について考えてみる。

 

①そのままアニメ化するには難しいパートの改変(1、2)

 本来なら寮に行くきっかけとなった縄跳びパートをEDに持って行って、空いた穴をアニオリで埋めた格好。原作をそのままアニメ化しようとすれば縄跳びシーン自体にそれ相応の尺を割くことになったと想像されるが、これをEDに持って行くことで本編の尺を上手く調整して、”アニメ1話分”という限られた尺の中に原作のエピソードを自然に収めることに成功している。さらに原作の縄跳びシーンも、高クオリティで印象的なEDアニメーションとして昇華できていて、まさに一石二鳥。

 そもそも前後の流れを崩さないように繋ぎのエピソードを考えることも難しかったはずだが、ちゃんと違和感なく接続できているところはシリーズ構成・全話脚本山崎莉乃氏の巧さというべきか。

 

②原作では担当回がないキャラクターを掘り下げるためのアニオリエピソード(3)

 アニメ「明日ちゃんのセーラー服」が成し遂げた快挙の一つに『1クール内で16人のクラスメイト全員に見せ場を作る』というものがある。これは7話のアニオリ回無しには成し得なかったと言っていいだろう。何せアニメ化時点では原作に蛇森さんと戸鹿野さんの担当回が無かったのだから。

 そもそも漫画とアニメは全く性質を異にする媒体だ。漫画は話数に制限がない*1が、アニメにはクールという明確な区切りがある。漫画は完結までに何話かけてもいいが、アニメは限られた話数の中で原作を一つの作品として完成させなければいけない。普通のアニメはこの媒体の違いを、原作を変えてまで埋める選択はなかなか出来ずに、キャラクターの掘り下げが中途半端になったり、1クールで物語を締めきれなくて俺たたエンドになったりする。

 しかし今作の制作陣は原作通りのアニメ化に拘らなかった。1クール内で16人全員を掘り下げて、アニメとしての完成度を最大限に高めるために、新規のエピソードを作って2人を掘り下げる決断をした。

 結果として当初の目的を達成したどころか、当該7話がどの回よりも絶賛される話数になったのだから改変は大成功したと言っていいだろう。まさに原作改変によってアニメ全体の完成度が向上した好例と言える。

 

 

 以上2点を見れば分かる通り、原作改変がバッチリ決まれば、原作にはない魅力をアニメを通じて引き出すことが出来るし、媒体の違いを理解したアニメ化が為せれば、原作以上に完成度の高い作品としてアニメを仕上げることが出来る。

 どうしても今作ほどレベルの高い原作改変をするには恵まれた環境が必要とはなってしまう*2のが玉に瑕だが、それでも原作改変を行うことによって得られるメリット、”原作改変の魅力”、というものはこの「明日ちゃんのセーラー服」というアニメを通じて十分理解できるのではないだろうか。

 

 だから皆さん、原作改変というものをそう目くじら立てて批判せず、制作側が頑張って良いものを作ろうとしてくれているんだな、と温かく見守ってあげましょう。(なかなかそうはいかないだろうけど…笑)

 

*1:打ち切りは除く

*2:実際今作では、制作時に原作者の博先生とアニメの制作スタッフがチャットでやり取りできる環境を作って、時に直接アイデアや意見を貰いながら先生と一緒に作品を作り上げていったとアニメーションプロデューサー福島祐一氏が仰っていたが、一方でそういう現場はそうそうない、これが当たり前ではない、といった趣旨の発言もあった。(ソースは12話放送後に配信された明日ちゃんのスペース。5chスレ”明日ちゃんのセーラー服 15プリーツ”のレス101,101に有志の要約が載せられているので興味のある方は是非)